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横浜地方裁判所 平成5年(わ)633号 判決

本店の所在地

神奈川県綾瀬市早川八六二番地

法人の名称

遁所道路株式会社

代表者の住所

同市川一丁目七番七-九〇四号

代表者の氏名

遁所玉由

本籍

新潟県南魚沼郡六日町大字泉甲五〇四番地一

住居

神奈川県綾瀬市川一丁目七番七-九〇四号

会社役員

遁所玉由

昭和一三年三月一五日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤光代出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人遁所道路株式会社を罰金二〇〇〇万円に処する。

被告人遁所玉由を懲役一年に処する。

被告人遁所玉由に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人遁所道路株式会社(以下「被告会社」という。)は、神奈川県綾瀬市早川八六二番地に本店を置き、一般土木工事業及び舗装工事業を営んでいたもの、被告人遁所玉由は、被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人遁所玉由は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売り上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和六三年八月一日から平成元年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五一四六万九〇四一円であったにもかかわらず、右法人税の納期限である同年九月三〇日までに同県厚木市水引一丁目一〇番七号所轄厚木税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における法人税額二〇四六万九三〇〇円を免れ

第二  同年八月一日から平成二年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一二六九万八四五三円で、課税土地譲渡利益金額が一二一八万四〇〇〇円あったにもかかわらず、同年九月二八日、前記厚木税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二三一七万八七六七円、課税土地譲渡利益金額が五二八万二〇〇〇円で、これに対する法人税額が九八三万七〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四七六九万七九〇〇円と右申告税額との差額三七八六万九〇〇円を免れ

第三  同年八月一日から平成三年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六九五〇万三五〇七円で、課税土地譲渡金額が一〇四一万六〇〇〇円であったにもかかわらず、右法人税の納期限である同年九月三〇日までに前記厚木税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における法人税額二八四二万八四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

〔 〕内の記号番号は証拠請求番号である。

判示全事実について

一  被告会社代表者及び被告人遁所玉由の当公判廷における供述

一  被告人遁所玉由の大蔵事務官及び検察官に対する各供述調書〔乙一乃至七〕

一  証人名雪眞理子の当公判廷における供述

一  名雪眞理子の検察官に対する供述調書〔甲五八〕

一  遁所好男、遁所良江、広田健一、名雪眞理子、佐藤和七、大笠幸子、中村友、清島昌道、仲西勉及び兼石博昭の大蔵事務官に対する各供述調書〔甲五九乃至七一〕

一  大蔵事務官作成の完成工事高調査書〔甲一〕

一  大蔵事務官作成の土地売上調査書〔甲二〕

一  大蔵事務官作成の建物売上調査書〔甲三〕

一  大蔵事務官作成の材料費調査書〔甲四〕

一  大蔵事務官作成の労務費調査書〔甲五〕

一  大蔵事務官作成の経費調査書〔甲六〕

一  大蔵事務官作成の外注費調査書〔甲七〕

一  大蔵事務官作成の兼業売上原価調査書〔甲八〕

一  大蔵事務官作成の土地原価調査書〔甲九〕

一  大蔵事務官作成の建物原価調査書〔甲一〇〕

一  大蔵事務官作成の役員報酬調査書〔甲一一〕

一  大蔵事務官作成の給料手当調査書〔甲一二〕

一  大蔵事務官作成の法定福利費調査書〔甲一三〕

一  大蔵事務官作成の福利厚生費調査書〔甲一四〕

一  大蔵事務官作成の事務用品費調査書〔甲一五〕

一  大蔵事務官作成の地代家賃調査書〔甲一六〕

一  大蔵事務官作成の保険料調査書〔甲一七〕

一  大蔵事務官作成の修繕費調査書〔甲一八〕

一  大蔵事務官作成の減価償却費調査書〔甲一九〕

一  大蔵事務官作成の通信交通費調査書〔甲二〇〕

一  大蔵事務官作成の水道光熱費調査書〔甲二一〕

一  大蔵事務官作成の広告宣伝費調査書〔甲二二〕

一  大蔵事務官作成の租税公課調査書〔甲二三〕

一  大蔵事務官作成の交通接待費調査書〔甲二四〕

一  大蔵事務官作成の顧問料調査書〔甲二五〕

一  大蔵事務官作成の諸会費調査書〔甲二六〕

一  大蔵事務官作成の寄附金調査書〔甲二七〕

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書〔甲二八〕

一  大蔵事務官作成の雑費調査書〔甲二九〕

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書〔甲三〇〕

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書〔甲三一〕

一  大蔵事務官作成の支払利息調査書〔甲三二〕

一  大蔵事務官作成の貸倒損失調査書〔甲三三〕

一  大蔵事務官作成の雑損失調査書〔甲三四〕

一  大蔵事務官作成の支払謝礼金調査書〔甲三五〕

一  大蔵事務官作成の前期損益修正調査書〔甲三六〕

一  大蔵事務官作成の固定資産除却損調査書〔甲三七〕

一  大蔵事務官作成の損金の額に導入した法人税調査書〔甲三八〕

一  大蔵事務官作成の損金の額に算入した地方税調査書〔甲三九〕

一  大蔵事務官作成の損金の額に算入した都道府県民税利子割調査書〔甲四〇〕

一  大蔵事務官作成の損金の額に算入した延滞税調査書〔甲四一〕

一  大蔵事務官作成の仮払法人税戻入調査書〔甲四二〕

一  大蔵事務官作成の仮払県市民税戻入調査書〔甲四三〕

一  大蔵事務官作成の交際費損金不算入調査書〔甲四四〕

一  大蔵事務官作成の納税充当金から支出した事業税等調査書〔甲四五〕

一  大蔵事務官作成の仮払法人税認定損調査書〔甲四六〕

一  大蔵事務官作成の仮払県市民税認定損調査書〔甲四七〕

一  大蔵事務官作成の有価証券売買損益調査書〔甲四八〕

一  大蔵事務官作成の事業税認定損調査書〔甲四九〕

一  大蔵事務官作成の課税土地譲渡利益金額に対する税額調査書〔甲五〇〕

一  大蔵事務官作成の普通預金調査書〔甲五一〕

一  大蔵事務官作成の定期預金調査書〔甲五二〕

一  大蔵事務官作成の有価証券調査書〔甲五三〕

一  大蔵事務官作成の出資金調査書〔甲五四〕

一  査察事務官作成の証拠品の写し作成報告書三通〔甲五五、五六、五七〕

一  大蔵事務官作成の証明書〔甲七二〕

一  大蔵事務官作成の報告書〔甲七三〕

(補足説明)

弁護人は、被告会社が平成三年七月有限会社清島商店に礼金として支払った金一〇二万八〇〇〇円、平成二年一一月六日有限会社仲西商店に礼金として支払った金二〇〇万円及び平成三年七月同商店に礼金として支払った金八〇万円のうち消費税分を差引いた合計金三七一万六五〇五円は、平成二年八月一日から平成三年七月三一日までの事業年度における損金として計算すべきものであると主張する。

ところで、法人税の課税標準たる法人の各事業年度の所得は、法人税法によれば「各事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額による」のであるが、その益金及び損金について定めた定義的な規定はない。しかし、税額計算の方法として益金算入金額は「資産の販売、有償・無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受その他の取引で資本取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」とされ、損益算入金額は「当該事業年度における収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額のほか、販売費、一般管理費その他の費用の額、当該事業年度の損失の額で資本取引以外の取引に係るもの」とされ、以上の益金、損金に算入すべき金額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるもの」と規定されている。

ところで法人所得は、一般の企業会計において慣習的に企業利益と認められるものの上に構成され、右の「益金の額」「損金の額」はおよそのところ、企業会計等の手法により収益を予定しているものであるから、右による事業経費は原則として損金となると云うべきであるが、右会計処理上事業経費となるものであってもそれが法人税法上損金に算入することが許されるかどうかは企業会計処理上認められたところのみによるものではなく損金の性質を理論的に解明するのは勿論、さらに税法上の解釈の諸原則や前記各税法の規定に現われた法の政策的技術的配慮等をも併せ考察して決定すべきであって実質上、経済的に事業経費であってもそれが法人税法上損金に算入することが許されるかどうかは別個の問題であり、その支出自体が法律上禁止されているとか、税法上の趣旨に反するような場合には法人税法上の取扱の上では損金に算入することは許されない。

ところで前掲関係証拠によれば、被告会社は平成三年七月有限会社清島商店に礼金として消費税を含めて金一〇二万八〇〇〇円を、平成二年一一月六日有限会社仲西商店に礼金として消費税を含め金二〇〇万円を、平成三年七月同商店に礼金として消費税を含め金八〇万円をそれぞれ支払ったことが認められるが、右はいずれも法人税を免れるため架空の事業経費を算出するために実体のない領収書を作成してもらい、その謝礼金として支払ったものであることが認められ、右は所得を得るためにまたは事業遂行上合理的必要性があるものと認められないし、仮に右礼金を損金に算入すればその相当分だけ法人税の負担が軽減され課税の趣旨に反する結果となるのでこれを適正な事業経費として損金と認めることは許されない。

よって弁護人の主張は理由がない。

(法令の適用)

被告人らの判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項(被告人遁所道路株式会社については更に同法一六四条一項)にそれぞれ該当するが、被告人遁所道路株式会社については、同法一五九条二項を適用し、同遁所玉由については、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同遁所道路株式会社については、同法四八条二項により、その合算額の範囲内で罰金二〇〇〇万円に、同遁所玉由については、同法四七条本文、一〇条により犯情のもつとも重い判示第二の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人遁所玉由を懲役一年にそれぞれ処し、情状により、同法二五条一項を適用して、被告人遁所玉由に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 服部金吉)

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